2022.02.10 健康生活よもやま話

漢方ライフを楽しみましょう ~Part 2~

[執筆者]

オレンジ薬局鎌倉店 薬局長 髙村 優子

コロナ禍での生活も2年を過ぎ3年目に入りました。この間、ご来局される患者様の健康に対する意識は日増しに高まってきている様に感じます。患者様とお話をしていると、抱えている疾患とは関係なく、「免疫力を上げたい…」「気持ちよく寝たい…」「落ち着いて生活したい…」等々、患者様の言葉には、以前にも増して心身共により健康に生活したいという気持ちが表れています。

 前回の『漢方ライフを楽しみましょう』でも触れましたが、漢方には健康な生活を送るための様々な知恵が詰まっています。今回はその中でも特に『お腹』に関するお話をしようと思います。
※前回掲載のお話はこちら
sano.pp-server.biz/note/health-column/2015/10/16/261/

◆脳腸相関
 昔から日本語では「腹が立つ」「腹黒い」「腹に据えかねる」など精神作用を「腹」で表現する言葉も多く、実際に精神症状と消化器症状が結びつくことも多くあります。テスト前のお子様や、仕事や人間関係のストレスを抱えた方が下痢や便秘、食欲不振になるのもその一例でしょう。大切なプレゼンや発表会の前に過度の緊張からえずく…、なんて経験をされた方もいるかもしれません。自閉症の子供には消化器症状(下痢や便秘)が現れる事が多いともいわれていますし、胃食道逆流症(GERD)と睡眠障害との関連性もわかっています。精神症状と消化器症状は本当に関連性が深いのです。実際に漢方ではストレスや不安感を除く処方で胃腸症状を改善させることはよくあります。また逆に精神症状やその他の症状改善を目的に、本来はお腹の症状のために使用する処方薬を使うこともあります。
 ここ最近「脳腸相関」という言葉をよく聞くようになりました。古くからある概念ですが、近年腸内細菌の研究が進歩したことで、改めて「脳」「腸」「腸内細菌(腸内環境)」の関係が注目されています。
この様な概念も先にお話しした例の様に、漢方では当然のように活かされてきました。

◆「脾胃を立て直す」
漢方では「脾胃を立て直す」という考えがあり、様々な病気に対して消化器症状の改善を図る事が大切にされてきました。消化器の機能低下が気・血・水の生成や状態悪化に影響し、さらに処方薬の効果発現に関係することが分かっているからです。現在保険適用されているエキス剤を見てみると、その多くに脾や胃に働きかける生薬が含まれていることが分かります。また、主訴に対する処方にその様な生薬が含まれない時には必要に応じて合方する事もあります。脾胃の機能が安定し、腸内環境が整っている方が、本来の主訴に対する効果がしっかりと発現されるからです。漢方医学では昔から食物の精気を取り入れる消化器の重要性と、消化器とその他の症状の関係性に気付き、それに基づいた処方が試されてきたのです。「脾胃を立て直す」…これは漢方にとってとても大切な事であり、そのための処方や生薬が多くあります。

◆腸活
 近年腸内細菌の研究が進歩したことで、「腸活」という言葉もよく聞くようになりました。以前より体に良いとされてきた発酵食品だけでなく、腸内細菌をうたったサプリメントや健康食品も次々に発売され、試された方も多いと思います。洋の東西を問わず、昔から『お腹』の健康はとても重要とされてきました。
健康器具の元祖ともいえる「青竹踏み」。足裏健康法は遺跡の壁画にも残っていることから、紀元前2300年程前に既にエジプトで行われていた様です。中国やインドでも紀元前より行われていたようですが、日本では半分に割った竹を踏む「青竹踏み」が簡単な健康法として親しまれてきました。この「青竹踏み」で一番刺激を受ける部位、つまり土踏まずの部位には、胃や腸、肝臓を含む腹部との関係性があると言われています。普段の何気ない健康習慣の中にも実は消化器の機能を整えながら、疲労回復につなげていく要素がちゃんと入っているんですね。

 発酵食品やサプリ・健康食品、青竹踏み…、どれも私たちの大切な『お腹』を整えてくれるものです。今度はそこに「漢方薬」も加えてみませんか?勿論どの処方を選ぶのか…という問題はありますが、より健康に過ごすための選択肢の一つに入れて頂けると嬉しく思います。

参考
漢方処方ハンドブック  編集 花輪壽彦 医学書院
森永乳業 まいにち乳life:https://mainiti-nyuulie.com
ヤクルトベース 腸活教室:https://www.yakult-base.jp
画像  いらすとや:https://www.irasutoya.com