2023.05.08 健康生活よもやま話

『お口の健康とからだの健康』(2)

[執筆者]

オレンジ薬局 北山田店 薬局長 千葉 菜穂子

いつまでも美味しく食べて健康でいるためにお口の健康はかかせません。
前回は歯周病が引き起こすさまざまなからだの病気についてお話ししました。
今回は口からはじまるフレイル予防についてお話しいたします。

https://www.sano-ph.co.jp/cms/note/health-column/2016/11/18/579/

○食事で気付くオーラルフレイル
「食べる」行為とは、目の前の食物の匂いや形状を理解し、口に運び唾液と混ぜ合わせ、小さな塊にして食道へ運ぶ動作です。歯や唇、舌、喉などの一連の協調運動によって行われるこの動きを摂食嚥下(せっしょくえんげ)と呼び、これらの運動に障害が生じた状態を摂食嚥下障害と呼びます。この摂食嚥下のメカニズムは、脳の指令やさまざまな神経伝達により機能しますので、加齢や疾患の影響を受けると、若いころには気づかなかった変化が生じてきます。たとえば、「噛みづらい」「飲み込みづらい」「口が乾く」「ムセる」など、口腔機能が衰えている症状をオーラルフレイルと呼びます。オーラルフレイルは全体的なフレイル進行の前兆となり、深い関係性が指摘されています。

○誤嚥(ごえん)と誤嚥性肺炎
オーラルフレイルから誤嚥という症状が引き起こされます。誤嚥とは食べ物などが誤って気管に入り込んでしまうことを言いますが、高齢になると、口の中の細菌も増加傾向にあり、飲み込む機能が低下すると口の中の細菌を気管に引き込むことになります。気管には本来、異物を排除する機能が備わっていますが、さまざまな疾患の影響や免疫力低下により、この防御機能が低下し、誤嚥から肺炎を発症することがあります。いわゆる誤嚥性肺炎です。

○肺炎から命を守る口腔ケア
誤嚥性肺炎を予防するために大切なのは口腔ケアとなります。まずは、ブラッシング方法です。ゴシゴシ力を入れて磨くのではなく、歯と歯肉の境目を柔らかい歯ブラシの毛先で振動させて磨くと良いです。「バス法磨き」などの方法があり、かかりつけの歯科医にご自身にあったブラッシングを教えてもらうと良いでしょう。もう一つは、口の周囲の筋肉にアプローチするケアです。代表的なケアが、唾液腺マッサージとパタカラ発声(※)、舌のストレッチなどで、噛みやすく飲み込みやすくするだけでなく、唾液を出して潤し、美味しく味わい、汚れを洗い流し、口腔内環境を整えることができます。歯磨きと口のリハビリ、この2つが肺炎予防の入り口です。(※パタカラ発声:「パ」「タ」「カ」「ラ」音の発声。オーラルフレイル対策の例として、この各発音8回を2セット行うなどの体操がある。)

○唾液腺マッサージと発声練習
唾液の中には、消化酵素や感染から体を守る免疫物質や抗菌物質が含まれています。一口30回以上噛むことにより、本来は、唾液腺が刺激されて十分に唾液が分泌されるはずが、高齢になるとお薬の影響や話す機会が減ることなどにより、唾液の分泌が減少します。唾液を出すためには唾液腺をしっかり刺激することも必要となります。大きな唾液腺が左右の耳たぶの下にありますので、耳の下から両手の指先で前に向かってクルクルと回します。また、下顎の骨の内側に指を添えるようにマッサージするのも効果的です。前述の「パタカラ音」発声時の舌の動きは、飲み込むときの舌の動きと一致しますので、それらの音が入った発声練習や舌を前後左右に動かすこともお勧めです。

健康で長生きするためにもお口の健康を心がけましょう。

参考:歯周病予防で健康力アップ 財団法人8020推進財団
介護現場で今日からはじめる口腔ケア メディカ出版
生活歯援プログラム 日本歯科医師会
画像:いらすとや